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東京高等裁判所 平成8年(ネ)1315号 判決 1997年8月18日

一三一五号事件控訴人・一三三〇号事件被控訴人

若松宏次

一三一五号事件被控訴人・一三三〇号事件控訴人

吉澤正雄(原告)

主文

一  第一審被告の控訴に基づき、原判決中、金一二三二万五八三八円及びこれに対する平成二年一〇月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を超えて支払を命じた部分を取り消し、右取消部分についての第一審原告の請求を棄却する。

二  第一審被告のその余の控訴を棄却する。

三  第一審原告の控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを八分し、その七を第一審原告の負担とし、その余を第一審被告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  第一審原告

(第一三三〇号事件)

1 原判決中第一審原告敗訴部分を取り消す。

2 第一審被告は第一審原告に対し原審認容額のほか更に六九〇五万三三一七円及びこれに対する平成二年一〇月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

4 仮執行の宣言。

(第一三一五号事件)

控訴棄却の判決。

二  第一審被告

(第一三三〇号事件)

控訴棄却の判決。

(第一三一五号事件)

1 原判決中第一審被告敗訴部分を取り消す。

2 第一審原告の請求を棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

第二事案の概要及び証拠関係

事案の概要は、次のとおり付け加えるほかは原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであり、証拠関係は原審及び当審記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決書二枚目表四行目の「原告」の次に「(昭和二七年一月生まれ)」を加え、七行目から八行目にかけての「、肝機能障害」を削り、同枚目裏二行目の「同人には」から四行目の「二者につき」までを「同人には、他覚症状として軽度の右下腿筋萎縮、前記傷害の治療薬に起因する薬剤性肝障害と推認される肝機能障害及び右下腿手術創醜状痕の後遺障害が残り、そのため自覚症状として右下腿部中央以下の疼痛、しびれ感及び右下腿外側から足底にかけての知覚鈍麻があるが」に改め、五行目の「三〇、」の次に「三二の7、」を加え、六行目の「の総額」を削り、同三枚目表二行目の「被告」を「第一審原告」に改める。

二  同三枚目表一一行目の次に行を改めて「(第一審原告の主張)」を加え、同枚目裏二行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(三) 通院交通費 三四万四〇〇〇円」

三  同三枚裏三行目の「(三)」を「(四)」に改め、同四枚目表二行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「仮に自営店からの収入について休業損害が認められないとしても、平成二年度賃金センサスによる三〇歳から三四歳までの男子の平均収入(年額四一一万〇七〇〇円)を基礎とした金額について休業損害が認められるべきである。この点は後記(五)の逸失利益の損害についても同様である。

なお、第一審原告は実際には昭和六二年六月末日までの少なくとも一七七〇日間休業を余儀なくされた。」

四  同四枚目表三行目の「(四)」を「(五)」に、九行目の「(五)」を「(六)」にそれぞれ改め、一〇行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(七) 弁護士費用 三六〇万円

(八) 治療費の額が第一審被告の後記主張のとおりであることは認める。仮に過失相殺される場合には第一審原告が被った右治療費の損害をも損害に加えて損害の残額の計算がされるべきである。

(第一審被告の主張)

第一審原告主張の損害のうち入院雑費及び傷害慰謝料は金額を含めて認め、通院交通費の点は争わないが、その余は争う。なお労働能力喪失期間は長くとも一〇年とすべきである。

前記のとおり第一審原告には過失がありその過失割合は少なくとも六割であるから、損害額は本件事故により第一審原告に生じた全損害(弁護士費用を除く)から右過失割合による過失相殺をしてこれを定め、その後に第一審原告が受けた損害の填補額が控除されるべきである。そして、第一審原告に生じた損害として第一審原告が主張するもののほか治療費合計七三三万七九三八円があり、填補として前記争いのない既払金のほか労災保険療養補償給付金(付添看護費を含む。)六〇七万五七〇八円及び労災保険休業特別支給金一〇八万〇二二八円が給付されている。」

第三当裁判所の判断

一  本件事故の態様及び過失相殺

1  次のとおり改めた上、原判決書四枚目裏二行目の冒頭から同八枚目裏三行目の末尾までを引用する。

(一) 四枚目裏二行目の「甲三〇」を「甲七の1、2、三〇」に改め、三行目の「結果」の次に「(原審。以下同じ。)」を、同五枚目表六行目の「三三〇メートル」の次に「(乙五の図面による。)」をそれぞれ加え、七行目の冒頭から九行目の「不明である。」までを次のとおり改める。

「 本件交差点と本件1交差点はいずれも信号機により交通整理が行われているが、右各交差点の信号機は同一制御機で同じ表示をするよう制御されている。本件事故当時の表示秒数は、第一審被告進行道路については青色二五秒、黄色三秒、赤色二四秒、第一審原告進行道路については青色一七秒、黄色三秒、赤色三二秒であり、第一審被告進行道路の信号が黄色から赤色に変わってから二秒間は第一審原告進行道路の信号も赤色でこの間いわゆる全赤信号となるよう設定されていた。また、第一審被告進行道路方向には第一審原告進行道路を横断する歩行者用の信号があるが、この信号は第一審原告進行道路の信号が赤色になってから一九秒後(青色になる一三秒前)に青色から青色の点滅に変わる(乙第九号証中の信号表示に関する部分は、甲第七号証の2と対比するとその根拠及び昼・夜間の区別が明らかでないから、採用することができない。)。」

(二) 同五枚目裏一〇行目の冒頭から六枚目表八行目の末尾までを次のとおり改める。

「 第一審原告は、昭和五八年一一月一七日警察官に対し、次のとおり供述した。

『 第一審原告は前記脇道から第一審原告進行道路に出て右折したが、そのとき本件交差点の対面信号が赤色から青色に変わったのを認めた。その後速度を上げ時速二〇キロメートルくらいで走行し衝突地点から二六八メートル余り手前の地点(<イ>点。右認定の距離は甲第三二号証の3(昭和五八年一二月一〇日付け捜査報告並びに遅延理由報告書)との対照により認めることができる。以下の各距離はいずれも同様である。なお、右<イ>の記号は甲第三二号証の5と同号証の3の記載に従って特定のために記載するものであり、原判決別紙現場見取図の記号とは異なる。以下の記号も同様の関係にある。)で対面信号が赤色になっているのを認めた。そこで、対面信号が青色になるときに本件交差点に着きそのまま停止せずに直進できるよう時速約一五キロメートルから三〇キロメートルの間で速度を調整しながら走行したが、衝突場所から三二・六五メートル手前の地点(<ウ>点)で本件交差点の出口左側に設置されている歩行者用信号(第一審被告進行道路方向の歩行者用信号)が青色の点滅信号になったので時速約五キロメートルに速度を落として進行したところ、衝突場所から一二・二五メートル手前の地点(<エ>点)で対面信号が青色になったので加速しながら本件交差点に進入し直進した。衝突の直前に加害車を発見したがそのときの速度は時速二〇キロメートルないし二五キロメートルであり急ブレーキをかけるかかけないうちに衝突した。自分も青信号に安心し右方の安全確認が足りなかったが相手側には赤信号無視の過失がある。』

そして、第一審原告は、昭和五九年三月二九日検察官に対しても、右と同様のことのほか、前記脇道から第一審原告進行道路に出てすぐ対面信号を見たところ赤色から青色に変わったこと及びその青色のうちには本件交差点を通過できないと考え次の青色信号で通過するつもりで速度を調整しながら走行したことを重ねて供述した。また、第一審原告は、自賠責保険関係の調査書類にも自分は青信号で本件交差点に進入した旨記載して提出している。」

(三) 同七枚目表九行目の「原告」を「第一審被告」に改め、同裏一行目の「交差点手前」の次に「<2>地点(甲第三二号証の3に照らし合わせると本件交差点手前の停止線の手前三三・二メートルで衝突場所からは四三・四メートル手前の地点であると認められる。)」を、三行目の「衝突した。」の次に「<2>地点からは加速していたのでその当時の速度は時速約四五キロメートルであった。」をそれぞれ加え、五行目の「進入した」を「進入したので、本件交差点に入った直後に赤信号になったかも知れないからこれは認めるが、第一審原・被告とも赤信号(全赤)であったと思う」に改め、九行目の「手前」の次に「である前記<2>地点」を、同八枚目表一行目の「衝突した」の次に「。信号の色はわからないが、相手が青色ということはない」を、三行目の「とおりである」の次に「。全赤くらいであったと思う」をそれぞれ加える。

2  右に認定した第一審原告の説明と先に認定した信号表示サイクルによると、第一審原告は<イ>地点から<ウ>地点まで約二三五メートルを一九秒間で走行したことになるからその間の平均速度は時速四〇キロメートルを相当上廻ることになり、また<ウ>地点から<エ>地点までの約二〇・四メートルを一三秒間で走行したことになるからその間の平均速度は時速約五・六五キロメートルになり、そうすると<イ><ウ>間については第一審原告の説明する走行速度に沿わない結果となる。しかし、右各地点の特定及び走行速度はそれ自体完全に正確なものではあり得ないし右説明は前記のとおり本件事故から相当長期間を経過した後にされたものでもあるから、これらのことを考えると右の計算上の数値との不一致は第一審原告の右説明の信用性を考える上でそれほど重視することはできない。そうすると、第一審原告の前記走行方法に照らすと対面信号が青色になることを見越してその直前に本件交差点に進入したのではないかという疑いを完全には払拭できないとしても、右説明自体には青信号に変わった直後に進入したことを否定すべきほど著しく不合理な点は認められない。

他方、前記第一審被告の説明は時々に著しく変化しているのであるから一般的信用性が減殺されるものといわざるを得ない。そして、右一連の説明によれば、第一審被告が本件交差点に進入したときにはその対面信号が赤色に変わっていた可能性が最も大きいというべきであるが、これが全赤のときであったかどうかは結局右説明中の第一審被告の走行速度と前記<2>地点(第一審被告が対面信号が黄色になったことを確認したという地点)の正確性にかかるところ、速度の点はともかくとして、前記のとおり説明内容が変遷していることを考えると、<2>地点に関する第一審被告の説明はそのとおりには採用し難いといわざるを得ない。そして、第一審被告の対面信号が黄色になった地点が<2>地点より遠方であるとすれば、第一審原告がその対面信号が青色に変わった直後に本件交差点に進入したこともあり得ることになる。そのほかに信号の状況を確認するに足りる証拠はないから、第一審被告の前記説明だけでは第一審原告の対面信号が赤色であったと認定することはできないというべきである。

ところで、前記認定によれば、第一審原告は脇道から第一審原告進行道路に出た後本件交差点までの間、対面信号が青色に変わると同時に走行状態のまま本件交差点に進入するため速度を調整して準備し、本件交差点の直前で対面信号が青色に変わった直後に走行状態のまま更に加速して本件交差点に進入したものであることが明らかである。このような方法で交差点に進入する車両は少なく、普通の運転方法とはいい難いのであるから、第一審原告は、第一審原告車両のような進入車両はないと軽信して右方から進入してくる車両があり得ることを予想し、これとの衝突を回避するため特に右方の安全に注意して進入すべきであったというべきである。ところが、前記認定によれば、第一審原告は右注意を怠り右方の安全を確認しないまま前記態様で本件交差点に進入したのであるから、第一審原告にはこの点で不注意があったというべきであり、本件事故は第一審原告の右過失と第一審被告の過失(赤信号での進入)が競合して発生したというべきである。そして、双方の過失割合は、第一審原告一割に対し第一審被告九割と認めるのが相当である。

二  第一審原告の損害

1  付添看護費

証拠(乙八、一一)によると、第一審原告は前記のとおり傷害を負ったが右傷害は重傷であり付添人を必要としたため昭和五七年八月二七日から同年九月一八日まで家政婦を付添人に雇いその費用を支払ったこと、労災保健関係で付添費用が認容され同年一二月二四日右期間の看護料として第一審原告に一八万九一二三円の労災保険給付がされたことを認めることができるから、右事実によれば第一審被告は本件事故により右一八万九一二三円の付添看護費の損害を被ったものと認めるのが相当である。第一審原告は労災保険給付がされたもののほかに七万三五〇〇円の付添看護費の損害(第一審原告の母親の付添分)があったことを主張するようでもあるが、右主張を認めるに足りる証拠はない。

2  入院雑費

第一審原告が二三万三〇〇〇円の入院雑費の損害を被ったことは当事者間に争いがない。

3  通院交通費

第一審原告が三四万四〇〇〇円の通院交通費の損害を被ったことは第一審被告の争わないところである。

4  休業損害

(一) 証拠(甲三ないし五、六の1、2、三〇、三一、三二の5、乙一一)によると、次の事実を認定することができる。

第一審原告は昭和四五年に高等学校を卒業後飲食店で働きながら調理師学校を修了し、昭和四七年一二月ころから自宅で飲食店「げんき」(本件自営店)を経営していた。右自営店は遅くとも昭和五三年以降は所轄保健所長の営業許可を受け昭和五二年七月ころからはカウンター式の八席の店であるが、第一審原告のほかには従業員はなく、午後五時から深夜一時ころまでが営業時間で年中無休であった。第一審原告は、本件事故の一年ほど前からはこのほかに五幸商店に勤め築地の魚市場内の店舗で働いていたが、その勤務時間は午前四時ころから昼ころまでであった。五幸商店の昭和五六年分の給与は二二六万二一五五円であった。ところが、第一審原告は、本件事故で前記のとおり長期間入・通院する必要があったため、昭和六〇年四月ころまで右仕事をいずれも休業せざるを得なかった。

第一審原告は当審で休業期間を昭和六二年六月三〇日(最終通院日)までと主張するが(ただし休業期間の計算上は原審の主張と同様に昭和六〇年三月を終期としている。)、本件証拠上具体的な休業期間の認定に供し得るものは甲第三〇号証及び三一号証(いずれも第一審原告の陳述書)並びに乙第一一号証(労災保険給付関係資料)があるにすぎず、第一審原告本人は原審の本人尋問期日に出頭しなかったため採用決定が取り消され、当審でも申請がなかったため第一審原告本人は直接この関係について説明をしていない。そして、甲第三〇号証及び三一号証には第一審原告は昭和六〇年春にはすべての仕事を辞めなくてはならなくなったと記述しているだけでその後の仕事の様子について何も触れていないのであり、乙第一一号証では休業補償給付は本件事故当日から昭和六〇年四月までされたことを認めることができる。なお第一審原告の通院期間中昭和六〇年春ころ以降の実際の通院頻度がどのようなものであったかを確認するに足りる証拠はない。以上の証拠関係と審理経過のもとでは、昭和六〇年四月三〇日まで(九七九日間)は休業期間と認めることができるがその後の休業期間は認めることができないというべきである。

(二) 第一審原告は、本件事故前五幸商店から前記給与収入を得ていたほか自営店により年間一二〇〇万円程度の利益を得ていたと主張している。しかし、この点の証拠も乙第三〇号証及び三一号証による第一審原告の陳述とそのほかに第一審原告の警察官に対する供述調書である甲第三二号証の5があるにすぎないところ、これらには何も裏付け証拠がなく、かえって証拠(甲四、五)によると第一審原告は本件事故の前年の昭和五六年分の確定申告で自営店について赤字の申告をしていたことを認めることができることに照らすと、右陳述書及び供述調書だけで右主張のとおり自営店で利益を上げていたとは到底認めることができない。もっとも、第一審原告は昭和二七年一月生まれの男子で前記のとおり就労して生活をしていたものであるところ、五幸商店からの給与収入は賃金センサスにより認められる平均的賃金額よりも相当低額でありかつ前記陳述書及び供述調書によると第一審原告は自営店の経営により実際に利益を得ていたこと自体は認めることができるから、これらのことに照らすと、第一審原告は、五幸商店及び自営店での就労を通じて、本件事故前、控えめに見ても賃金センサス昭和五七年第一巻第一表による産業計企業規模計高卒男子の全年齢平均収入額である年額三六六万五二〇〇円程度の収入を得ていたものと認めるのが相当である。

(三) 右(一)及び(二)によると、休業損害の額は九八三万〇七六九円になる。

3,665,200÷365×979=9,830,769

5  逸失利益

前記のとおり第一審原告には軽度の右下腿筋萎縮、薬剤性肝障害と推認される肝機能障害及び右下腿手術創醜状痕の後遺障害が残り、そのため自覚症状として右下腿部中央以下の疼痛、しびれ感及び右下腿外側から足底にかけての知覚鈍麻があるところ、自賠責保険の後遺症認定手続において一四級一〇号の認定を受けている。右事実によると、第一審原告は前記昭和六〇年四月三〇日の翌日である同年五月一日(三三歳)から六七歳までの三四年間(ライプニッツ係数は一六・一九二九)、五パーセントの労働能力を喪失したものと認めるのが相当である。第一審原告は労働能力喪失率は三五パーセントとすべきであると主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はない。また第一審被告は労働能力喪失期間は長くとも一〇年とすべきであると主張するが、一〇年経過後に前記後遺障害が改善されあるいは労働に影響がなくなると認めるに足りる具体的な証拠はないから、採用することができない。そして、逸失利益の基礎となる収入は前記三六六万五二〇〇円とするのが相当である。

そうすると、第一審原告の逸失利益は二九六万七五一〇円になる。

3,665,200×0.05×16.1929=2,967,510

6  過失相殺

以上の1ないし5の損害は合計一三五六万四四〇二円である。そして、このほかに第一審原告が治療費七三三万七九三八円を要したことは当事者間に争いがないからこれを加えると二〇九〇万二三四〇円になるところ、これについて前記過失相殺をした残額は一八八一万二一〇六円である。

7  慰謝料

第一審原告の受傷内容、入・通院期間等及び前記過失相殺事由があることに照らすと、第一審原告が傷害のため被った精神的苦痛に対する慰謝料は二一〇万円とするのが相当であり、また前記後遺障害の部位、程度及び右過失相殺事由があることに照らすと右後遺障害により被った精神的苦痛に対する慰謝料は八〇万円とするのが相当である。以上の慰謝料の合計額は二九〇万円である。

8  損害の填補

右6及び7の合計額は二一七一万二一〇六円であるところ、第一審原告が自賠責保険から一二〇万円、労災保険休業補償給付金として三二三万〇五六〇円の各給付を受けていることは当事者間に争いがなく、また乙第一一号証によると第一審原告は労災保険の療養給付(前記付添看護費を含んでいる。)として六〇七万五七〇八円の支払を受けていることを認めることができるから、これらを控除するとその残額は一一二〇万五八三八円である。なお第一審被告はこのほかに労災保険休業特別支給金が給付されているからこれを控除すべきであると主張するが、右特別支給金を本件の損害から控除するのは相当でないから、採用することができない(最判平成八年二月二三日民集五〇巻二号二四九頁参照)。

9  弁護士費用

本件訴訟の難易、認容額その他の事情に照らすと、第一審原告が負担した本件の弁護士費用のうち一一二万円は本件事故と相当因果関係のある損害に当たると認めるのが相当である。これを右8の金額に加えると合計一二三二万五八三八円になる。

三  結論

以上の次第で、第一審原告の本件請求は自賠法三条に基づき一二三二万五八三八円及びこれに対する本件交通事故後の平成二年一〇月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであり、その余は理由がないから棄却すべきであるから、これと一部異なる原判決は相当でない。

よって、第一審被告の本件控訴に基づき原判決を右のとおり変更することとし、第一審原告の本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 新村正人 加藤英継 岡久幸治)

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